ご報告とわたしの気持ち〔2〕

〔1〕からのつづきです。

——都写美は休館中でーすwwwざーーーまあみそしーーるーーーーwwwwwww

すみません、これは原文のままです。最初に受信ボックスを開いたときはいらいらっとしたんです。知ってるし!休館中とか知ってるし!!夏ぐらいから知ってるし!!って。
でもこれ、いわゆるエアリプとかではなくて、メールフォームから(つまり、直接わたしだけの目に触れる方法で)送られて来たんです。しかも携帯電話のいわゆる「本アド」で!
もしかしてだけど、わたしが万が一そのことを知らなくていつまでも返事が来ないとくよくよしたら可哀想だと思い、しかし普通に「もしもしご存知ですか」と親切にするのはなんだか恥ずかしく、それでこんな照れ隠しをしてるんじゃないの。
そういうことだろッ?

でも、このぶんだとこの方の優しさ、好きな人にちゃんと伝わっているのかどうか心配になります。身近なお友達はよくわかっているのかな、そうだといいです。
あと「ざまあみそしる」ってすっごくかわいいですよね。ざまあみそしる vs ざまあみそづけ だと、わたしはみそしるのほうが好きです。
よしもとばななの短編集に、「ざまあみそしる〜!」でオチがつくような話があったようななかったような。うろ覚えです。
今後積極的に使っていきたいです。

——あなたは女性でしかもセックスワーカーで、人権が増えていいですね。人間というのは平等だと思っていました。

いいえ、人間というのは平等です、あなたの思い違いではないです。あなたは間違っていない。
人権って、よくわからないんですけど、ひとりにひとつ、誰のも同じ大きさで同じ重さらしいです。ただ手で持ったり秤に乗せたりできないし、目で見ることもできないので、まれに「同じ大きさなんてうそだろう、あの人のはきっと小さいだろう」と思い込んでしまう人がいるみたいなんです。「あなたのは、軽いもんね」とかこともあろうに「え、ないよね」と思われるのって、とても困ります。あるものをないと思い込まれて、でも見せてあげることもできなくて、しょうがないから「あるんですけどー」って言ったりします。それしかないので。
そして女性だったり、セックスワーカーだったりすると、どうもそういう機会が増えるようです。
そのため「あるんですけどー」を言ってるのがよく聞こえるから、あれれあの子はいくつも持ってるのかな?増やしてるのかな?と思われるかもしれないんですが、ひとつしか持っていません。

あなたの持つそれは、いかがですか。元気ですか。わたしがたくさん持っているように見えるのは、いいですね、と思うのは、あなたもまた「ないでしょ」と言われているのではないかという考えが頭をよぎりました。わたしの方が恵まれて見えるだなんて、かなり脅かされている可能性が高いのではと。
でもあります。あなたの人権はあります。今までもずっとあったし、これからもずっとあります。
それをないように扱う人がいたら、その人は間違っていますし、あなたが辛い目に遭わされているなら、助けを求める権利がいつでもあるはずなのです。目の前に誰もいないのなら、わたしに求めてもいいですよって、本当は言えたらいい。でもそこまで言うことができません。ごめんなさい。

——売春婦をセックスワーカーと言い換えるのはなぜですか。きれいな言葉に言い換えて本質を覆い隠すのは、盗撮を芸術と言い換えるのと同じくらい卑怯なことではありませんか。

セックスワーカー、をまるできれいな言葉のように思われるのは、これまで蔑称として長年使用されてきた「売春婦」という言葉に含まれるような蔑みの念をあなたが感じにくいからではないでしょうか(物足りない場合は、肉便器、などというアイディアもあるようですね)。

セックスワーカーという言葉は性別を語りません。売春婦、娼婦、風俗嬢、これらはどれも「女である」という意味を含んでいますよね。でも、セックスワーカーは女性だけじゃありません。女性も男性もいます、どちらにも属さない方もいます。
では、性風俗産業従事者、とかそういう感じじゃだめですかね?と思われるかもしれません。
ただ、そうですね例えば、お店の受付にいるいわゆる黒服さんボーイさんと呼ばれる方、デリバリーヘルスなら運転や電話受付の業務にあたられる方、それから成人向けの映像作品を作っている方、など。わたし個人は、性産業従事者という言葉だとこのようなより広い意味を指したイメージが浮かびますので、英語のsex workerをそのままカタカナ書きにした「セックスワーカー」という言葉を用いることが多いです。利用客と実際に相対して性的サービスを行う人間のみに限定して指したい場合って多いのですが、それにぴったりあてはまる言葉が日本語にはどうも見当たらなくて。

2014年末のいまセックスワーカーという言葉が用いられる場合、そこに蔑みのニュアンスは込められていないことの方が多いです(例外はたくさんあります)。
ただし、この先のことはわかりません。
使われ方次第で、未来にはやはり蔑みのこもった言葉になってしまっている、そんな可能性もなくはないのでは、と心細くも思います。
言葉の運命は人の口にかかっています。
わたしにとってはこれは、本質を覆い隠した言葉ではなく、覆い隠すものを取り除いて本質のみに近づけた言葉です。今これを読んでいるあなたにとっては、いかがですか。
どうぞ、あなたはあなたの信念に沿った言葉でわたしたちを呼ぶことができます。わたしはわたしの信念に沿って、お返事するかどうかを決めます。

——風俗で働いていらっしゃるのなら、写真を撮られるよりも危険な目に遭う可能性がたくさんあるのではありませんか?盗撮くらいのことをなぜ怖がっているのか、知りたいです。

写真を撮られるより危険な目(危険に順位って、あんまりはっきりつけられませんが)にあう可能性はあります。怪我をさせられること、金品を盗られること、薬物を投与されること、身内や別の職場に仕事を明かされること、そして一番てっぺんには「殺されること」。
全部だめです。どれもあってはならないことです。そしていわゆる堅気の仕事なら危険な目から免れられるかというと、そうではないです。
だからどれに対しても「NO」と言います。「やっていいと言っていないことをやらないでください」と言います。

いま挙げた中では、怪我と盗みは軽微(ってなんだろな?と思いますけど)なものならありました。薬物は未遂でした。殺されたことは幸いにしてまだありません。
やった人にはそれぞれ言い分(ストレスのせいだとか、キミを愛してるからとか)がありましたが、わたしが店に訴え出ることができ、男性スタッフが登場したケースに関しては最終的にみなさん謝罪をされました。警察に言わないでくれと懇願までなさった人もいました。
本心はわかりません。ですが口先だけであれ申し訳ありませんでしたという言葉が出てきたのは「風俗の女の子だからってなんでもしていいわけではない。好き勝手に暴力を働いたらそりゃあ警察に言われても当然で、こちらに分はない」という共通認識のおかげでしょう(男性が現れるまでは強気な態度だったというところは置いておいて……悔しいですが)。
わたしはこの認識にがんばってほしいので、すくすくと育って欲しいので、言葉を尽くします。「やっていいと言っていないことをやらないでください」と言います。言い続けます。

——これだけ文章が書けるコが、なぜ風俗で働いているのですか?大学はどちらを出られてます?すみません、とても興味があるもので。なんだかかまいたくなりますね(/ε\*)

わたしにかまう時間で「それなりの学力があったであろうお嬢ちゃんが風俗だなんて、何か面白い理由があるに違いないゾ☆」というご自分の中にある偏見とそれをむき出しでぶつけてしまった失敗によくよくかまってさしあげてください。

——セックスワーカーという仕事は特殊だと思いますが、男の立場からしていえば天使の仕事としかいえません。感謝があるのみです。

どういった意味合いで「天使」という言葉を選ばれたのか、わたしの汲み取れない意図がおありなのかもわかりませんが、わたし個人はその形容をストレートな賛辞としては受け入れられません。わたしたちは人間です。意思があり感情があり突けば痛いですし血が出ます。
わたしたちのキスもハグもオーラルサービスも、服を脱ぎ甘い声を出すことも、すべては労働です。奉仕ではありません。時には心や愛情を込めた、労働です。
ただの労働を美化や神聖視されることに対し、不安を覚えるセックスワーカーは多いと思います。それは蔑視と表裏一体であると、身をもって知っているからです。感謝を表していただきながらこのようなことを告げるのは心苦しいですし、蔑視などしているおつもりもないと思います。が、セックスワーカー本人に面と向かって言うのにふさわしい言葉では、残念ながらない場合があると、感謝してくださる方だからこそ知っていただきたいのです。感謝というお言葉は確かに受け取りました。ありがとうございます。

——セックスワーカーに人権などありはしないと思います。一度、ご臨終になられてはいかがでしょう。

セックスワーカーに人権は、あります。いまSTAP細胞のことを思い出さないでください。
そしてセックスワーカーに人権があることで、セックスワーカーでないあなたの人権に、その価値になにか変化がもたらされるように思えるならばそれは錯覚です。大丈夫です。
臨終の件につきましては、明確な時期を申し上げられませんが、あと70年ほどお待ちいただければ確実かと思います。

——現役で働いているあなたに辛い経験を語らせて、私はただリツイートするだけで、まるで当事者の声を搾取するかのような気持ちになります。申し訳ないです。

な、なにをおっしゃいますやらそんな!お気になさらないで下さい、なんにもなんにも。わたしはそんな風には感じてないですよう。
だってあの記事は3日間で80,000くらいのページビュー数がありましたし、そのう、本当に気にすることではないですよ。ぜんぜん。でもこういうお気持ちを複数の方がくださっていて、じんわりと温まりました。ありがとうございました。
いま改めて確認したら12万に増えていました。もっとかっこいい記事をいっぱい書いておけばよかった。あと本当にわたしはGoogleアドセンスを貼っておけばよかったですね!ざまあみそしるー!!!

ここからは個人的なお喋りです。

iからはじまる3ドット9文字@gmailの方

わたしも美術館とか博物館、好きですよ。ミュージアムショップについつい長居してしまいます。
慌ただしいであろう時間帯にサッとおたよりしてくださってありがとうございます。その瞬発力というか、尊敬します。お気持ち、よく伝わりました。

iからはじまる4文字@gでもyでもない方

お客さんでいちばん多いのはおそらく赤いマルボロだと思います。
わたしの持っているお客さんではJPSなどもよく目にします。
わたしがベッドで最も吸っている副流煙はたぶんパーラメントでしょうか。

jからはじまる8文字@gmailの方

わたしの祖母がボタニカルアートを趣味にしていたことを思い出しました。母も静物画を描いていたような話をちらりと聞いたことがあります。わたしも幼い頃は植物とぬいぐるみしか友達がいませんでしたので、日陰の植物なんかには親しみを持っています。ドクダミとか。

9_14文字@ヤホーの方

あの、呼んでください。名前。うふふ。椎名さんでもこゆりさんでも、お年が近いようなのでこゆりちゃんでもいいですよ。
誰かにいやな思いをさせて、でも自分は忘れ去ってしまっているようなことが、そうと気づけてもいないくせに背後からやってくるとき、ありますね。わっと叫んで机につっぷしたくなるような気持ちになります。うう。
身体を気遣ってくれてありがとう。あなたもお風邪など召されませんように。お仕事が充実すること、陰ながら祈っています。本当にお疲れさまです。

ここまで長いエントリをお読みいただきありがとうございました。
もしもわたしが何かよくない思い違いをしていたり、言葉の使い方を大きく誤っているところがあればいつでも教えていただきたく思っています。ですがいつにも増して黒く重たい言葉も多く受け取り精神面での疲労を感じていますので、今後お返事や交流についてはこれまで以上に慎重になるつもりでいます。わたしのお手紙をきっかけにして多くの方がご自身の考えを見つめてくださったこと、お友達やネット上で行き合ったどなたかと意見を交わしてくださったこと、得難い経験でした。

どうぞよいお年をお迎えください。わたしもいつも通りの年末を、黒豆を煮たり抹茶ババロアを作ったり、店長の「年始はいつお会いできますか?(=いつご出勤してもらえます?)」というメールに「んー、わかんない♡」と返事したりする年末を過ごします。おこられます。

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