〔1〕のつづき。
東京都写真美術館は、わたしが送ったのと同じ通数のメールを返してくださっています。
お返事をくださる、ということだけで少なくとも「無視するつもりはありません」というメッセージだけは、しっかりと受け取っています。公共機関がわたしを無視しないってことが、たったそれだけの普通のことがなんでこんなに泣けるくらい身にしみるのか。さあー、どうしてでしょうねえ(相棒の右京さんみたいに読んでほしい)。
東京都写真美術館の責任範囲- [娼婦の無許可撮影を考える 7 ] 松沢呉一のビバノン・ライフ
今のわたしは、この記事に書かれていることについてああ、そうだ、そうだなあ!と思って考えているところです。特に2についてはまったく考えが及んでいませんでした、思いつけなかった。わたしにとって美術館というのはとても大きな存在で、そこへ働きかければわたしの見ている4について何か変わるんじゃないかみたいなイメージを持ってしまってたんですけど、そうとは言えないと学びました。3については、なんていうか、4への気持ちそのものですよね……(これまでを読んでいる方にしか分からない書き方ですみません)こうして自分以外のひとの言葉で目の前に出てくると、本当に弱い。苦しくなります。4はわたしにすごく強くて、ちょっと睨まれただけでもう竦んでしまう。
「芸術だからといってこれは行き過ぎですよ!これだから芸術なんかやってる男はダメなんですよ云々」とわたしに言ってきてくれた方は何人かいらっしゃいました。でも、その「これは行き過ぎ」って誰がどうやって判定しているものなのか。
例の写真が展示された当時、美術館には意見が寄せられなかったそうですね。「行きすぎた行為」だとは誰も言わなかったわけです。「これだから
(ただ、観賞しに来たお客さんが美術館に対して何か意見することは困難だろうとも思います。それから、これは友人と話していて気づかされたことなんだけど、関係者だからこそ指摘できない、っていうこともきっとありますね)
展示に際してはおそらく大橋氏の手によってアンケートボックスが設置されていてそこには否定的な意見もあったようですが、これが何に対するものであるかは今のところわかりません。「ものすごく怒ってるのもあった」という言葉に、誰かが指摘してくれていたかもしれない……と思うとささやかな希望が胸に灯ります。しかし直後の「面白かったよ」が同時に目に入ってあっという間に消えちゃいそうになるので、風よけの囲いが必要です。
——そうそう、あれが2007年! たしか、展示スペースにアンケートボックスが置いてあって。自分も感想、書きましたよ。
ホント? 嬉しい嬉しい。最終的に、2、300枚かな。けっこうな数が集まって。写美がアンケートボックスの設置を認めてくれたのも大きかったね。老若男女が書いてくれたよ。ものすごく怒ってるのもあったし、ただ『ウンコ!』とだけ書いてあるヤツとか。オレの意図を理解してくれた人もいたし、色んな意見をもらえたね。面白かったよ。
——大橋 仁、人類の明るい繁栄のため全財産をはたいて酒池肉林を撮り収める。 | TOMO KOSUGA – Part 2
松沢呉一さんの「セックスワークを考える – 娼婦の無許可撮影を考える」シリーズは、この問題を考えたい人すべてに読まれるべきことがたくさん書いてあって、特にわたしとしては「これだから芸術なんかやってる男はダメなんですよ」とか思っている人の目に入るといいなあと思っています。あと「芸術は全て犯罪だからあきらめろ」とか「勝手にタイ人のセクシャルワーカーを代弁するな」とか「あなたのように自分の意見を持っている風俗嬢なら尊敬しますよ」とか。そうやってわたし(たち)の4への気持ちを見ない振りする人、見ない振りでこれからもやっていくべき、それが結局は全員にとって幸せだ、と思っている人に。
一部は有料ですが、分厚くない文庫本一冊ぶんくらいの値段です。10冊買ってもなかなか得られない気持ちを得ることができたのでわたしはとても買ってよかった。
もう何年も前だけど、源氏名が「ナナ」だったことがあります。
そのお店はわりとあっという間に潰れてしまいました。お給料は安いし駅から歩くしホテルも遠いし女の子は数える程しかおらずそれなのにタオルは常に足りないし(つまり隅から隅まで資金力がなかったのですね)という店でしたが、待機室(兼事務所、兼撮影スタジオの狭い部屋)になんとこたつがあった。いかにも旧式の、あちこち塗装が剥げている大きめのこたつ。仕事を終えて疲れ果て、ここで一休みしているうちに眠り込んでしまう、という形の「店泊」をしょっちゅうしている女の子がいました。
わたしがコートを着て帰ろうとしていると「奈々ちゃん、帰るの、お疲れ、またね、気をつけてね、またねえ」と、3割は夢の中みたいな声で言って。玄関でブーツをはいてもう一度振り返ると、こたつ布団に埋もれたまま1円にもならないはずの笑顔をちゃんと作って手を振ってくれていた。
一度くらい一緒にお泊まりしたらよかったよ。一緒にこたつで寝て、遠慮してちょっと浅く体勢をとったりして、次の日には若干頭が痛くなったりすればよかったよ。