天気予報よりもどこかのお宅の庭木よりも、ドラッグストアで季節の進み具合を思い知らされるときがあります。リップクリーム・ハンドクリーム連合軍と制汗剤・日焼け止め同盟軍の所有面積が逆転するのを見て、冬が苦手な人間としてはつかの間の平和を実感するのです。

でも色とりどりの栄華を誇ったハンド&リップクリームの棚がじわじわと追いやられるのは、それはそれで淋しいものがある。秋になってリップクリームの小さなパッケージたちが、お行儀よく壁面に並びながら日ごと仲間を増やしてゆく姿はそれだけで可愛らしいものです。どっちの味方なのかと怒られそうですが、わたしの所属は夏でも保湿が欠かせない乾燥肌王国です。

リップクリーム、リップバーム。
人によって『大好きなので集めても眺めても楽しい』だったり『うっかり忘れて慌てて出先で買うから増殖』だったり『べつに好きじゃないのによくなくすからしょっちゅう買っている』だったり、いろんな関係性がありそうです。なんだかんだで戻る腐れ縁の1本があったり、幼なじみのような1本があったり、普段は手に取らないけど困ったときだけ泣きつく1本があったりしませんか。
化粧品の好みって本当に個人でそれぞれ全然ちがうし、好きなものを使うに限ります。
ただ、仕事、となるとちょっと違った選び方をするときもある。

くちびるはとにかく働き者です。
いちばん大事な商売道具のひとつというか、もうとにかく使う、ずっと使ってる、(たまに本当に)すり切れるほど。酷使するパーツ第3位[*1]だと思う。
なのに、長いコースなら数時間単位で無防備なままで刺激(摩擦に次ぐ摩擦、固い体毛やその断面との摩擦、唾液まみれからの乾燥、なんらかの液体の付着など)にさらさざるをえない。自分の一部ながら申し訳なくなるほどです。せめていたわりたいので、保湿・保護するものはついたっぷりめにしっかりガッツリ塗ってしまいます。どうせ舐め取られる運命だとしても。
そこに味や香りがついていると、にぶい、うとい、ボーッとしているの三拍子揃ったわたしのお馴染みさん(ごめん)でもさすがに気がつくみたいで、くちびるの味に興味を示されたり、コメントされることはけっこうあります。

じゃあとりあえずなんでも無香料のものなら無難でしょう、と思うとそうもいかないらしい。皮膚科で処方されたプロペト(ワセリンを精製したもの)でも「この味なんだろ?」と怪訝な顔して言われることはあります(もしかしたら、感触や他の要素に反応しているのかもしれません。普段自分の唇にそういったものをつけてケアする習慣がまったくない人もいるので、慣れていないと違和感の正体を正確に捉えられない、ってこともありそうだなって思う)。
むしろ少し香りがあった方が「なんかおいしい匂いする〜♡」なんて反応がよかったりして。へえ〜。

心理的な面での負担をさておけば、キスはSTI的な心配度も負傷する確率も比較的低いセーファーなプレイなので、ちゅっちゅするのを楽しんで時間を割いてもらえればこちらにとってもとりあえずプラスです(発症中の口唇ヘルペス[*2]とかがなければだけどな!)(あとテクニックのつもりで噛んでくるやつの前歯が明日起きたらスポンジになってますように)。とくにデリのロングコースなんかだと、そういうペース配分ていうか、大事なときあるよね。
香りは感じ方に差があるうえに好みがあるから難しいものだけれど、なんのフレーバーか当ててもらったり、どれが好きか考えてもらいながら何度もキスをしてプレイのひとつにすることもできますし、うまくいけば仕事の役に立ってくれることも多いです。あとは唇どころか顔面を隅々まで舐め尽くそうとする人に当たらないことを祈るばかりさ。ねえあれ本当にまじでなんなんだろうね。あのー、行灯の油を舐める江戸時代とかの妖怪っているじゃん? あれが現世によみがえって化粧品の油分を求めているのではないかね? わたしが神なら彼らの舌に魔法をかけて、自分のおでこや鼻の頭が舐められるようにしてさしあげるのに……。

妖怪に出会ってしまったらもうどうにもなりませんが、人間のお客さん&自分向けにいろんな都合の折り合いを探りながら試し続けているいろんなリップアイテムについて個人的で勝手なことをワーワー言おうと思います。
おすすめというよりも、わたしが楽しいひとり語り(にしかならなくない?こういう直接からだに使うものって『いい悪い』じゃなくて『合う合わない・好ききらい』の話しかできないよね〜)です。せめても最初に椎名のリップ選びあるあるを書いておくのでよかったら目安にして読んでください。

☆ 夜勤務なのでSPFは不要
☆ 原料のにおいがする無香料よりもフレーバー付きを取るタイプ
☆ 2つ以上持ち歩くのも平気
☆ メントールの清涼感やプランパー系の刺激が苦手
☆ 植物油+なんらかのワックス、という作りのものに気に入る製品が多いのでコスメキッチン的な場所で財布のヒモを緩めがち(その最中は「あたい優しい風俗嬢だからてめえらの口に入るアイテムはできるだけナチュラルなやつにしてやんよ感謝しな」と客のせいにしている)
☆ 持ち客のみなさんは全体的に甘いフルーツ系の香りが好きなようだ、食いしん坊か

じゃあ行くよ!なんども言うけどぜんぶ個人の相性と感想、私以外私じゃないよ!!

いきなり製造中止になった製品の話から始めて申し訳ありません。だけど言いたいことがあるんだ聞いてくれないか。これさ〜細かい不満(微妙に軸がカタカタする点、冬に固すぎる点など)はあったものの甘い香りと硬派なデザインとのギャップや夏場でも溶けないところ、口紅がよく乗るところが好きだったので、悲しみに暮れつつもベリーじゃないニュートロジーナ(そっちは普通に売ってる)も一度は試してみようかと思ったんだよ。ベリー版から香りだけを抜いた感じかと思ったんだよ。
そしたら……なんか全然ちがった。塗りごこち、塗ったあとの感触、口に入っちゃったときの味、ケースの構造、何もかもが「なんかちがう…」だった。ショックのあまりすぐなくしたので詳しいことは忘れた。どうしてだベリー。戻ってきてくれベリー。俺が悪かったよベリー。

 

【ツヤ好き女子をざわつかせた、まるで固形のリップグロス】
今さらわたしごときが紹介したところでどうなの。と思うほど定番の、プチプラグロスからこれに乗り換えた人も多いと思う革新的かつ好き嫌いの分かれる製品。わたしも重いリップは好きなのですが、みっちり粘る濃厚さよりもオイルっぽさ、バターっぽさがタイプなので、この薄く強くびちーっと密着する感触にはそんなに惹かれなかった……が、しかし最初はたいへん衝撃を受けました、だってこの値段と仕上がり。リップグロスと色つきリップとの境界線を揺さぶったすごい存在だと思います。
色も香りもありなし選べるので、あの密着感と粘りの強い感じが苦手でさえなければおすすめなんですが、しかしお客さんウケがよくない、というかキス向きではないので仕事で減らすのはもったいない。雑誌「LDK」にこっぴどく書かれた[*3]過去も何のそので、これからも売れ続けるでしょう。

 

【ロート製薬の二枚看板、この安さでUV対応】
いつか出勤途中にうっかりリップを落としてしまったとき、事務所から一番近いコンビニに売っていたのがこれでした。そのまま仕事用のバッグにポンと入れたら入れっぱなしとなり、ひと月くらい経ってから「使われもしないのにずっと連れ回されて……」と胸が痛んだのでふと塗りたくってみたりしました。遠い昔、制服のポケットの中にいつもいてくれたナースちゃんマーク。邪険にはできません。
使い心地にはあまり特徴がないというか、『みんなが思うリップクリームの平均』って感じだけれど、口に入ったときの味が画用紙っぽいなと勝手に思っています。って言うと「画用紙食ったことあんのかよ〜」とわたしの中に住む3年生の男子にツッコまれるな。
成分を見ると「ホエイ(牛乳)」とあってちょっとおもしろい。基剤がシリコーンオイル[*4]とワセリンで「ぴっとりツルンと保護されてる」と感じる人も「なんだか少しだけつっぱるような」って人もいそうな感触です。これも色や香りがいろいろ選べます。

 

【うさぎ、それは絶対的圧倒的かわいさ】
パケ買い上等。ミッフィー様には誰もかなわないのだ、ひれ伏せ皆のもの。しかもこの冬のお洋服とてつもなくかわいくないですか!?
使った感じはあっさりサラリで、小さな子供たちが使うことを想定して作ってるのが頷ける感じでした。原材料を見るとほんの少しメントールが入っていますがスースーするほどではなく、そこもあんしん仕様です。よく見るワセリンがこれには入っていなくて、そのせいか固めの感触をしています。表面のベタつきがない。
すれっからしのわたしの唇にはちょっと物足りないけど、ポケットに入っているだけで心がうるおうお守りのようなリップです。となると理論上はもうこれでもいいだろってことか。いやそんな。

 

ヴァセリン リップ ロージーリップス 7gヴァセリン リップ クレームブリュレ 7g
【小ささ、それは絶対的圧倒的かわいさ】
パケ買い上等(2回目)。初めて見たとき息が止まるかと思いました。よーく知ってるあいつが、ただめっちゃ小さく(高さ3.5cm)なっただけだというのに、ああ、抗えない。この世にはチューブに入ったリップ用ヴァセリンが既にあるというのに、そっちのほうが絶対使いやすいのに。人間の業の深さよ……(あ、でもあれはなんか海外っぽい謎のあまぁ〜い香りなので、無香がいい人はこっちだよ)。
普通のヴァセリンが200g入って700円台なのに、5gで500円近いコレを買うとかまじなの!? と何度も自分に問いかけましたが、うるさい!自分で稼いだ金だ!カワイイ代を払うのだ! とわたしがわたしをねじ伏せた。所有するだけで嬉しくなって大して使っていない(!)くせに「使い終わったら小物を入れたい」という気持ちだけは満々です。microSDカードとかMagSafeのコンバーターとか入れたい。「あ〜これいま外したら絶対なくす!」という恐怖から逃れたい。じゃあ早く使えや。
ピンクの色つきと、クレームブリュレ(バニラとかカスタードとは言わないところがよ…)の香りつきもあります。

 

【出しゃばらないツヤ感と被膜感、男の人にも好まれそう】
グリチルレチン酸(消炎作用がある成分で、歯磨き粉やニキビ向けをうたう化粧品、外用薬なんかに使われる)が入ってるのがおもしろいなーと思って買いました。といっても医薬部外品なので、本気でヤバいときは歯が立たないとは思うけど、ちょっと敏感になりそうかな? ってときによさそう。重さ、圧迫感はあまりないのに、ピタッとガードしてくれる感じはしました。実直な仕事って感じ。1000円近いのでドラッグストアで買える中では上の方の価格だけど、高いとは思わなかったです。
「荒れ性で合わないものが多いけどキュレルだけは大丈夫、一生ついて行きます」という人をけっこう見かけるので、地味ながら愛され、頼られているなーと思います。そういう人になりてえもんだぜ。

 

【第3類医薬品】モアリップN 8g【指定第2類医薬品】テラ・コートリル軟膏a 6g【指定第2類医薬品】デンタルピルクリーム 5g ×2
【困ったときの医薬品3つ】
で、抗炎症、とかの話になるとすぐ思い浮かぶのはモアリップ。そのグリチルレチン酸がおそらくもっと高濃度で、さらにビタミンも入っています。有名すぎて身近に感じる存在だけどしっかり医薬品なので、普段のリップケアとして常用はできません。
右のふたつはもっとガチな第二類医薬品で、細かい成分は違ったと思うけど、どちらもステロイド+抗菌薬を組み合わせたものです。テラ・コートリルは粘度が高く密着し、デンタルピルクリームは少し柔らかめで容器がモアリップ系。食べ物などで唇が広めにかぶれたときなんかは後者がおすすめです。テラちゃんが悪いわけじゃないが、大昔のセメダイン575みたいな色[*5]をしてるので……。

この3つはすべて唇の荒れだけでなく口角炎にも適応がありますが、治りが遅いときは皮膚科に行った方がいいよ〜とお節介したい。というのはね、わたしがお世話になったお医者さんによると、口角炎にはいろいろな原因があってそれぞれ対処法が違うのだそうです。歯磨き粉や化粧品のかぶれ、食べ物の刺激、貧血やその他の病気の合併症、細菌の感染、真菌の感染……そう、多くのセックスワーカーにとってとても身近な存在であろう真菌、切っても切れない腐れ縁のあいつ、カンジダ!!こんなところでもわれわれを困らせるだなんて、まじで許さんカンジダ菌。それでなくても仕事中の口角ってピキピキと半端ではない負担をかけられてるし、もう労災認定いただきたいわ。
真菌は抗菌薬では退治できないので、もしカンジダ菌に感染してできた口角炎だった場合は頼もしい彼らもなす術がないはずです。カンジダかどうかは、お医者さんに相談すれば顕微鏡で皮膚のかけらを見てたしかめてもらえると思う。

↓リンク先で添付文書のPDFを見ることができます


ところでそのお医者さん(仕事のことは全然言ってない)に「カンジダっていうとデリケートゾーンの病気を連想して驚く人もいてね、確かに同じ菌ではあるんだけど、どちらにせよもともと誰にでもいる菌なのだから気にするようなことじゃないよ、大事なのはよく寝ることです」と優しく説明されて何とも言えない気持ちになった思い出があります。たとえば患者がネットで検索して「カンジダは性病のひとつ」という記述に行き当たりショックを受ける可能性とか、そういうことあらかじめ想定してケアしてくれているのだと思うと嬉しかったんだ。それから「どちらにしても」気にするようなことじゃないよ、と言ってくれたことも。

誰が読むのか分からないくらい長くなったので続きは次回!
ドラッグストア以外で買えるものを語ろうと思います。もっと長くなりそうでやばい。

*1 酷使度2位は局部の粘膜、1位は自律神経、という暫定順位にしました
*2 ぽつぽつ出ているときの口唇ヘルペスは接触でうつる、ということ、キャリアの人であっても全然知らないことがあります。今まで何人のお客さんに、言いにくいのをどうにかこうにか伝えてきたかわからない。「でもほっときゃ治るよ」とか「普通に子供にチューとかしてるけど大丈夫」なんて言われると背筋が寒くなります。防ぐ手段があるというのは幸運なことなので、知ってほしいです。*3 かつて生活情報誌LDKにて低い評価のレビュー記事が掲載され、この製品を支持する世間の女子との評価基準の不一致に心がざわついたのであった

*4 シリコーン、最近は皮膚をむしばむ悪者みたいに思われてるけどわたしは肌に合えばあまり気にしていません。いろんな使い道があるものなのできっとどこかしらでお世話になってるはずだと思うし、あの、ちょっとお高めの乾きにくいローションとかシリコーン様のお力なので感謝してます

*5 我ながら例えがわかりにくい。練り辛子を半透明にしたみたいな色です(わかりにくい)

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