インディビジュアルな仕事ですね、とお客さんから言われたことがあります。その言葉を知らず、教えてもらいました。
現場ではいつもお客さんと一緒にいますから、個人作業、というと少しピンときませんが、確かに仕事中のわたしはいつもひとりきりです。

売るものは決まっているはずなのに、求められるものはどこまでも広く大きく果てしなく、その場ではすべてを自分ひとりの力でどうにかしなくてはなりません。誰かに助言を求めることも、手助けをしてもらうこともできません。誰もいないからです。たとえどんなことが起こっても。

そのような性質の仕事であれば、せめて仲間と語り合い、情報交換をしてより実りある仕事への手がかりを得たいものですが、それもまた簡単ではありません。仕事中に同僚と顔を合わせて話ができる環境は減っていますし、私生活で仕事の話をすることはもっとむずかしい。

たいへんあたり前のことですが、人は同じ職業に就いていれば同じ価値観を持っているというわけではありませんし、似たような人生を歩んでいるわけでもありません。ひとくくりに論じられる立場となりがちなわたしたちですが、「セックスワーカーとは〜である」と語ることが可能な存在では決してありません。わたしたちはすべてみな個人です。実際に顔を合わせたならば話が合ったり合わなかったり、友達になれたりなれなかったりする個人です。
その上で、わたしたちは時に、「同業の誰か」に対し思いを馳せることがあります。どうか今日の日が無事つつがなく終わりますように、と。

あてもなく空へと向かうそれらの思いを、面と向かって届け合える場所をつくることはこの仕事を始めてまだ間もないころからのわたしの夢でした。ブログやツイッターを通して個人的な思いを表現できるようになって数年が経ちますが、この経験とそこから得られた交流に、どれだけ助けられ力を与えられてきたかわかりません。

これまでのブログでは具体的な接客の話などはあまりしてきませんでしたが、実務に即したおしゃべりというのがしたくなり、ここをつくりました。
わたしひとりの経験には限りがありますが、書きしるすことで誰かのなにかの役に立つことがあればと思います。性的サービスを売買することにはさまざまな意見があり、それぞれに信念は異なることでしょう。しかし何を信じようと信じまいと、わたしたちは、今夜、働かなくてはなりません。ならば少しでも安全で筋の通った時間を持てることをわたしは望みます。
会ったこともない誰かにわたしたちが抱き続ける「お疲れさまです」がなにものの嘲りも受けずに形をなす世界が、未来にもたらされることを願っています。

 

書いている人

椎名こゆり

業種/多種多様を経て今は出張系(清楚系高級デリバリー、とかなんとか銘打たれている系)(回転が少なく接客時間が長め系)
勤務時間/夜〜深夜早朝
店年齢/24〜28あたりで使い分け
キャリア/在りし日のホテルアイビスを知っている/在りし日の赤坂プリンスを知っている(たまに知らないふりをする)/秋葉原ワシントンの建て替え前の姿を知っている(完全に知らないふりをする)

次に生まれる時はプリンスパークタワーの廊下の絨毯の模様のひとつになりたい