まじめなはなし

BAD girl and BAD disease

それは昨日のこと。twitterをみていて、暗澹たる気持ちになってしまった。
やりきれなくて、それをtwitterで告白した。

これについていろいろ考えていて、暗澹たる気持ちになってしまった。
http://t.co/1zdP3YY #

リンク先にあるのは、ポケットティッシュのような見た目をした紙だ。尿をつけて色の変化を見ると、尿のpH(酸性とかアルカリ性とか)がわかるのだという。それが何の役に立つかというと、性病の早期発見ができる、らしい。ヤバい菌がいるとアルカリ性になり、中性ならセーフ……そういうことらしい。

いいえそんなわけはない。STDにかかった人は全員おしっこがアルカリ性になるだなんて!ばかげているにもほどがある。

(STDの検査を受けたことのない人は、わたしのうろたえる理由がよくわからないかもしれない。少なくともこれまでにわたしがクラミジアなどの検査を受けた医院・病院(思い出せる範囲で8軒ある)で、尿のpH検査を行ったことは一度もない。綿棒のようなものを使って膣内の分泌物を採取するか、あるいは採血するか、そのどちらかだ。)

だけど商品の説明だけを読むと、まるですばらしいもののようにみえた。病院に行って名前や顔を出すこともなく、自宅で手軽にチェックできて、使い終わったものはお手洗いに流すことができて、そして何よりもとても安価で。いいことづくめだ。
でもそれは、当たり前だけど「信頼に足りるデータが得られるならば」のお話。そうでなければ何の役にも立たない。立たないどころか、もっといやなことが起こってしまう。

いやなこと、とはなにか。

なんでもない健康な人が「アルカリ性」という反応になったなら。
ショックを受け怯え、過去に交際した人の顔をひとりずつ思い返しては誰からだろうと悶々としながら病院へ足を運び、そこで「いいえ、陰性ですよ」と医師に言われておどろき無駄なお金を使ってしまったなあと思いながらも、でも、よかった、と安心する、そんなことがあるかもしれない。
(……これも確かにいやではあるよね。)

わたしが先に思い至ったのはもちろん逆のケースだ。
「中性」という結果だった人が、実際にはなんらかの病気に感染していたなら。
よかった、なにもなかった。ホッと胸をなで下ろし、そうだよなあ考え過ぎだよなよかったよかった、となれば、また誰かと性的な接触を持つこともあるだろう。そのSTDは知られないままに広がってゆくかもしれない。とてもいやだ。せっかく「一度STD調べよう」と思ったのに。勇気を出したかもしれないのに。
検査を受けようと決心すること、特に初めてのそれは多くの人にとってとても勇気を必要とすることだと知っているから、余計にくやしい。

商品の公式サイトには、「確定診断は他の所見とともに医師により総合的になされるものです」と一応書かれている。だけど不十分に感じる。だって「アルカリ性という結果でも、必ず病気とは限りません」という記述はあるのに「中性という結果でも、必ず病気でないとは限りません」とは、書かれていないのだもの。断然そっちが大事だっていうのに!
表記が適切で充分かについては、実際のものを見てもらうのがいちばんいいと思う。わたしには、この商品で「大丈夫」と出ればひとまずは大丈夫だよ、と言っているように受け取れた。セールストークの範疇を超えた売り文句か、もしくは本当に尿のpHでSTDを一網打尽に発見できると信じている人のものの言い方だと思った。

暗澹たる気持ちはさらに勢力を増す。

この商品がドン・キホーテで売られていた、というツイートを見かけた。
この商品が風俗店向けの業務用品店(のウェブサイト)で売られているのを見た。
働く女性キャストに使わせているという、店舗スタッフらしき人の書き込みを見た。
数カ月前までわたしが書き手として関わっていた高収入(≒性風俗)求人誌にも広告が出ていたと知った。風俗嬢向けの健康に関するコラムも連載しているのに。

——違ったらとりあえず不安は解消されるのですごく助かります。

——反応が出た嬢には病院に行ってもらっています。

——反応がでずにほっとしています(笑)

——1万くらいする検査キットでも反応がでたら病院に行くのは同じこと。だったらこっちの安いほうがお得で便利です。
(——販売しているサイトのお客様の声欄より抜粋)

どうして……と思い、悲しくて悔しかった。先述のサイトでは商品の詳細ページに「ジョークグッズ」との表記が一応はされていた。しかし「性病検査アイテム」のカテゴリに入れられて売られていた。ジョークグッズのカテゴリが別にきちんとある店であるにも関わらずだ。
病院に行きにくい人につけこんで商売をする会社だとか、すっかり信じ込んでしたり顔で「おすすめです!男ならお気に入りの嬢を守ってあげなくちゃね」などと書き込む者のおめでたさにももちろん腹が立つんだけど、それだけじゃない何かもっと莫大な悲しさ。

だって、この商品、売れると思う。すばらしいんだもん。病院に行って名前や顔を出すこともなく、自宅で手軽にチェックできて、使い終わったものはお手洗いに流すことができて、そして何よりもとても安価なんだもん。「しかし、肝心の信憑性が実はない」という点は誰にも知られないんだもん。

人に言えない病気だから。

人に言えない病気だから、こういうものが救世主になりえるんだよ。「でもそれって、どのくらい精度を期待できるの?」なんてのんきな疑問が入り込めないほどに孤独で八方ふさがりな悩みだからだよ。こんなもの信じるなんてバカみたい、と言うのは簡単だ。だけどそうは言えない、誰もバカなんかじゃない。本当のばかものは自分がSTDに感染する可能性などちらとも思わず、この商品を手にすることさえもないままに彼らを嘲笑う人々だ。性病?よく知らないけど自業自得だよね、とかなんとか言って。

男性でも女性でも尿をかけるだけで性病・性感染症の早期発見につながるポケットティッシュ型の全く新しいチェックアイテムができました!
(中略)
感染したことに気付かずそのままにしていたら大変!でも病院へ行って検査するのも恥かしいし、誰にも相談できないから、まずは少しでも気になったら「バッドチェック」
——公式サイトより

病院に行って検査するのは恥ずかしくないよ、誰かに相談したっていいんだよ。そう言いたい。でも言えない。病院の看護師に「あなたみたいな仕事の人に来てほしくないのよね」と言われるようなこの現状で、言えるわけがないじゃないか。

わたしの「暗澹」は世界を覆い尽くした。

この商品の名前は「BAD CHECK」という。
なにがBADなんだろう。STDに感染していると発覚すること? ……それはとてもGOODでLUCKYなことに、思えるよ。今のわたしは。だからそのBADを包み隠してしまうようなものは何ひとついらないんだよ!正しく教えてくれる手段しかあってはならないんだよ。
あーあ、マイケルに歌ってもらいたいや。

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一連の暗澹ツイートは、twilogの2011年9月7日分で原文を読めます。そして「それおかしいよ!」と言ってくれた方が何人もいて、とてもうれしく心強かった。そのうちのおひとり五条龍司さん(@gojopost)が書いてくださったブログをリンクします。わたしの書くものよりもずっと冷静でわかりやすく読みやすいよ。

ジョークグッズ「バッドチェック」について(性病の診断) – 大阪五条通信

 

性感染症にかかっているかもしれない、という気持ちの不安さは、誰もが持ちうる、持たされうるものです。知り合った人とどのようにセックスにいたるかというひとりひとりのライフスタイルには差がありますが、この不安から完全に逃れられる人はほぼいないのです(ベッドに入るまでに2人が過ごした時間がいかほどか、ウイルスの知ったことではないからです)。この不安から救ってくれるのは、真実だけです。内容はどうであれ。
不安やリスクとともに生きるわたしたち全員に、いつでも真実がもたらされるよう願います。そのために正しい選択をできるだけの知識が、特別な理解者や恵まれた環境によらなくとも「手軽に安価に」手に入るようになってほしい。近づくための道を探したいなと思います。

2011-09-08 | カテゴリ まじめなはなし | タグ: , Comments Closed