weblog, たわいないはなし

電話をするよ

「また指名するよ」と言われることがある。

だいたい、ありがとう、と答える。

それは平凡なよくある言葉だけど、中味はさまざま、いろんな言われ方がある。
「また指名してやるからそしたらやらせてくれるよな」のニュアンスを含んでいたり、
「大儀であった。下がってよいぞ」という挨拶に近い意味であったりもする。

もちろん率直な、楽しかったのでまたご一緒したいです、の時もいっぱいある。
そう言われるのはうれしい。
あちらには娯楽や楽しみで、こちらには仕事で、ということをちゃんと受け入れた上で、あなたのやり方は好きだ、気に入った。そう言ってもらえることは、何よりうれしいことだ。

同じ気に入られるでも、連絡先教えてとか今度飲みに行こうとか俺たち相性いい(それはそうだろう、合わせるために力を尽くしているのだから)からプライベートでどうだいとか言われるよりも、平凡な「また指名するよ」がずっとうれしい。

 

このまえ、服を着て荷物も持ってもう本当にさようならの時に、もしも言ってもらえるならきっとこのタイミングで「また指名するよ」と言ってもらえそうなその時に、お客さんが、
「また……電話を、するよ」
と言った。

電話をするよ。

その言い方が、すごく素敵だった。
彼はよいお客さんで、わたしの私生活を詮索したりないし、あわよくば仕事以上のサービスをもぎ取ろう、というみみっちい試みもしないし、提供したサービスをまっすぐ余さずに受けてくれた人だった。淡々としているというわけでなく、他愛ない世間話や他愛ない愛撫の中に、わたしのことを傷つけないでいようとするごく日常的な(おそらく彼にとって特別なことではないような)気遣い、が敷かれていた。
電話して呼ぶのには間違いない、デリバリーヘルスなんだから。ただ彼の口からこぼれた、指名ではなく電話、という言葉は新鮮にひびいた。

ほんの少しためらったような声と表情と。顔の角度や視線のような、作れはしないその時だけのタイミングのものが、全部瞬間に組み合わされて、素敵だった。
ああ、いいなあ。そう思った。

電話をするよ、と言われて、……うん、あたしも。と答えた。

こちらからかける電話番号なんかもちろんない。
でも、なんとなくそう言って別れた。向こうもそのことを何も言わなかった。

 

帰り道、UAの「電話をするよ」という歌があったなあ、と思って、車の中で聴きながら帰った。

2013-05-04 | カテゴリ weblog, たわいないはなし | タグ: Comments Closed