むかしのはなし

梅ちゃんが怒った夜のこと

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わたしが以前に盗撮された時のことを書きます。整理しながらなのでちょっとずつになるけど。

盗撮された経験は何度かあるんですが(なんということだよ!)、いちばん思い出深い(というのはおかしいですが)回のことを。初めて客に面と向かって「あなた盗撮してますよね?」と問い詰めた時のこと。コンデジでした。家具の隙間のようなところにうまく置かれてて、でも途中で気づいた。
(コンデジ=コンパクトデジタルカメラ。デジカメだけどあのレンズの大きな立派なやつじゃなく片手で持って撮れるような、あれです)(昔あゆがCMしてたようなのね)

やっぱり一瞬迷ったよ。客に指摘するか、それとも見なかったことにするか。でも、あまりにもそれまで過ぎた時間は長くて、わたしはもういろんなサービスをしてて、顔だってしっかり映った確信があった。言ってどんな反応が返ってくるかを考えると怖かったけど、あのう、これ何ですか?と言った。
客はしらばっくれた。何でもないよ置いてるだけだよ、と。わたしはひるんだ。でも引き下がっちゃいけないと思った。さっき出した勇気を無駄にドブに捨てられない。置いてるだけなわけないじゃないですか。客は開き直った。俺を疑ってるの?これはダメだ。わたしは全裸で立ち上がり携帯に手を伸ばした。

電話に出たスタッフの「はい、シーナさん。ご延長でしょうか?」に、違います、と言う。「はいかいいえでお答えください。助けが必要ですか?」「……はい」「了解すぐ行きます」これはキャストに「お客さんが○○しようとした」などと状況を説明させて客を刺激・逆上させないための配慮だと思う。

新規の客だったので、車がすぐそこにつけていた。それでもドライバーさんが部屋に来てくれるまでの数分間が、この上なく長く長く長く感じた。客は舌打ちをし、テーブルを爪で叩き、そしてわたしの顔を見て「金で買われた女なんだから黙って股開いてりゃそれでいいんだよこのガキ!」と唾を飛ばした。

その場にいない今となっては、客は怖かったんだろうと思う。これからどうなるのか。だから目の前で小さくなっている女にそんな暴言を吐けた。わたしは膝の震えを止めることに精一杯で、でももしかしたら殴られるかもしれないし客の手と足の先だけ視界の端で見ていた。顔なんかとても見られなかった。

やがて待ち侘びた足音が近づいてきた。やってきたドライバーは梅ちゃんだった。梅ちゃんはとても若くてお調子者で、そしてものすごくものすごくコワモテだった。背は高く筋肉はムキムキでタトゥーまであった。「お話を伺います」と言う梅ちゃんを見上げる裸の客の目は、さっきまでと全然違っていた。
梅ちゃんの顔を見てわたしは、そうだ服を着ようとやっと思い至った。それまでは下着をつけるくらいが精一杯だった、動くこと自体が腕一本でもとても怖かったのだ。ロビーで待つようにと言われ、荷物を持って退室した。エレベーターの鏡に映った自分の顔が自分じゃないみたいだった。平坦で青白かった。

そこはあまり高級ではないラブホテルで、ロビーといっても簡単なソファが観葉植物で仕切られているだけだった。フロントの人に何か言った方がいいのかなと思ったけど、その年配の女性はわざとかどうか、忙しくしていてこちらを少しも見ることはなかった。
梅ちゃんをすんなり入れてくれてありがとうございます。と思いながらソファに座ったら、その人が少しだけこっちを見てるのが気配で分かった。そして「大丈夫そうだな」と思ってまた仕事に戻ったことも、なんとなくわかった。そのうちに今度は内勤の人がひとり来て、盛大に気遣われたあと話を聞かれた。

 

結局わたしたちはその客を警察に突き出さなかった。店はわたしに選ばせてくれたからそうすることもできたのだけど、妻と子供がいると言って泣いて土下座するそいつが哀れになってしまい「いいえ構いません通報します」と言えなかった。何が哀れなのかはよくわからない。店は独自の示談を進めてくれた。
持っていた現金全てと運転免許証のコピー、デジカメ本体とメモリカード、そして下着姿の全身写真、顔写真。二度と店にもわたしにも接触しない誓約書へのサイン。それらと引き換えに彼は解放された。「ありがとうございます」とそいつは言った。なんのことだかさっぱり解らなかった。

最後に車に乗り込む時、客はわたしに頭を下げてきた。「すいませんでした大丈夫ですよね」と。だいじょうぶって何がですか?と思った。きっとこの人は今も「妻と子供」と自分は、目の前の女とその組織の男たちよりも高尚でまっとうな守られるべき人間だと思ってるのかもしれない、と思った。

そしたら梅ちゃんが客の胸ぐらをすごい力で掴んで「すいませんたぁ何だテメエそれが謝罪の言葉かよああん」と詰め寄った。「この子はあんたをもてなしに来たんだ、それを裏切ったのはあんただ、ぶち壊したのはあんただ、わかってんのかよテメェはよう」客はヒィと短い悲鳴を上げた。わたしは驚いた。

梅ちゃんはもう1人に慌てて止められて、でもずっと客を睨みつけていて、わたしは、もういいよ、と思った。ありがとうでももういいよ、この人はきっと解らない。怒りを露にする梅ちゃんは本当に強そうで怖かった。野蛮で怖くて、心から嬉しくて頼もしかった。だけど、この人はきっとなにも解らない。

 

細かく思い出すといらいらしたり怒りが再生されちゃうことばかりだけど、それでもその日の帰りに梅ちゃんに送ってもらったことは、そこだけはいい思い出。そこだけは。「裸見られちゃったねえ」と言ったら「あー!何も覚えてねぇ!しまったぁ〜」ってさ。

梅ちゃんはその後しばらくして知らないうちにいなくなってた。どこかで見かけたらコワモテですけどすごく優しい人なのでよくしてあげてください。

 

さっきの話、わたしの視点で読んだ人には嫌な客いるなって分かってもらえても、あの人にしてみれば「折角高い金出すんだし後で1人で見返せるようなものが欲しかっただけなのに、運悪く生意気な女に当たってしまい店員を呼ばれ、しかもそいつがいかにも柄の悪い男で、危うく全てを失うところだった話」として記憶されてるかもしれないんだよね。というか、そうなんだろうとわたしは思ってる。そしてこの場合良識ある世間はどちらかというと自分の味方であろうと思ってさえいるかもしれないな。わたしも梅ちゃんも、きっと彼の目には自分とはカテゴリの全く違う人間だった。例えば社会の落後者とか。

そんな人間に関わったせいでとんだ目に遭わされた不運な話として、男同士の内輪話で「まぁ、勉強代だな」「やっぱりろくなもんじゃないよ」みたいな雰囲気で話されたことももしかしたらあるかもしれない。裸の写真を撮られたことは伏せたかもしれないね。

あれ殴っちゃったりしてたら訴えられたりなんかしちゃったりとかしてたかもしれないもんねえ。でも梅ちゃんホントは殴りたかったと思うよ。でもそうしなくてよかった。

 

ぜんぶリプライできないけど、わたしが感じた恐怖を想像してくれて本当にありがとう。それはわたしがいつもとても望んでいることのひとつです。あと梅ちゃんの幸せを祈ってくれてありがとう。

梅ちゃんよ永遠なれ!わたしはあなたにとても大きくて強いものをもらって、それは今もまだここにあるよ。ありがとう。

2012-04-13 | カテゴリ むかしのはなし | | Comments Closed